消防訓練や防災訓練の支援サービスをやっているイグジット。
訓練の打合せのためにマンション管理組合や自治会のかたと話をしてきた。
打合せが最初からスンナリと運ぶことはあまりなく、「あーでもない、こーでもない」の堂々巡りから始まることが多い。
これって、課題が山積みになっていて、理想とするビジョンと現実との間に落差があることの表れなんじゃないだろうか。
これまでの打合せの段階で感じた、よくある傾向をまとめてみた。
あくまでも感覚だが、マンションの消防訓練よりは自治会の防災訓練でこれらの傾向が強い。
1 関係者の温度差が激しい
担当者・責任者とそれ以外の人の意識にかなりの差がある。
特によくあるのは、防災士とその他のメンバーとの温度差。
自主的にしろ他者からの要請にしろ、数日間の講習を受けてカリキュラムをこなした人はそれなりに防災意識が上がる。
今まで考えたこともなかったジャンルでも、体系的な基本知識を得れば当然のこと。
そして講習を終えた新防災士は、急上昇した防災意識を持って帰ってくる。
ヤル気マンマンの人vs防災ニーズに気づいてもいない人。
かたや熱い正論を吐くウザい人。かたや自分のことすら他人任せの人。
この両者がうまくいくわけがない。
【広い心で読みたい、防災防災ってウザいこと言う人の話】
防災の人がウザいと言われてしまう理由
2 毎回同じことを繰り返している
なにかひとつに特化したいのならともかく、総合的な力をつけたいのならバリエーション豊富なトレーニングを取り入れるのが吉。
トレーニングメニューは腹筋のみ!というスポーツ選手がいるだろうか。
毎年恒例の炊出し訓練は決して悪くないが、非常時にできるのは炊出しだけというのはいかがなものか。
広い空き地でガソリンを燃やして消火訓練ってのも、あり得る災害シチュエーションではあるが、火の出ない災害ではまるで役に立たない。

「広い空き地でこの程度の火を消火器で消す」シチュエーションの現実度はいかに。
「そんなこと言ったら、やるべきことが多すぎて対応できないじゃないか」
というご意見もうかがうが、だからこそちょっとずついろんなことをやっていこうよ。
3 あれこれ盛ってしまう
やるべきことは無数にある。
だから思いつくままに手をつけがちになる。
「あれもしたい、これもやっときたい」でプランを盛りこんでいくと、1回の訓練が半日、ときには1日がかりなんてことになってしまう。
ヤル気マンマンの人はそれでもいいが、防災ニーズに気づいてもいない人にとってはどうだろうか。
これは経験則だけど、参加型訓練とはいえ屋外で集中できるのはせいぜい40分。
室内でも1時間がいいところ。
まして完全に聞くだけの講話型訓練なら、座ってても30分だ。
防災ニーズに気づいてない人には、まずそのニーズに気づいてもらわねばならぬ。
そして、集中してもらうコツは、太く短く。
「今日はこれだけ覚えて帰ってください」的なものが1個あればいい。
【訓練トークに使える「今日はこれだけ覚えて帰ってください」】
消火器の手順を一発で覚える合言葉
4 いきなりすごいことをしたくなる
世間的に防災・減災が謳われるようになってくると、公の機関で取り組む災害対策をニュースとして見聞きするようになる。
避難所運営とか要配慮者支援とか。
「それいいよね!大事だよね!必要だよね!うちでも取り入れよう!」
てな感じでついやりたくなってしまうけど、ちょっと待て。
【シャレにならない避難所運営訓練のハンパなさ】
メディアの取材お断り!総理大臣は帰れ!それどころじゃない避難所運営
それ、確かに大事だけど、今すぐ必要か?今すぐできるか?
メンバーの中には「防災ニーズに気づいてない人」がいるのに。
そもそも公の機関で取り組む災害対策には、事前の綿密な調査研究とプランニングが存在する。
きのう今日で思いついてやっているのではない。
5 全員平等を目指している
「全員が習得できる訓練をしたい」というのは打合せでよく聞かれる要望だ。
担当者や責任者にしてみれば、みんなのためになることをしたいと思うのは当然だろう。
しかし、必要な備えはそれぞれに違う。
年齢・性別・生活習慣はみんな違う。
家族構成や家の中の様子、必要な物品など、全員に共通するものなどほとんどない。
【女性だったらあわせて読んどきたい、防災グッズのカスタマイズ】
女の防災グッズ・調子のいいお肌と眉毛と癒されるアロマが欲しかったら自分で備えよ
参加者全員の役に立つものは、もちろんある。
あるけど、それはありきたりの正論でしかなく、それを訓練でやるとインパクトの薄いプログラムになってしまう。
いっそ全員参加なんて目指さずに、テーマを絞りに絞った「あなたのための訓練」をやってみようか。
テーマはたくさんあるんだから、小さい訓練をいくつもやれば、全員がなんらかの習得をするという結果になるんじゃないだろうか。
まとめ
防災・減災って、小難しいけど要するにリスクマネジメント。
防災というと、発災のあとの対応、いわゆる危機管理だけに偏りがちだけど、リスクマネジメントは不確実な未然の出来事を相手にしている。
予防から初期対応、そして回復までの長期的な見方が必要だ。
防災はまさにリスクマネジメント。
だったらその進め方は社会人ならなんとなくわかるのでは。
1.リスクを見つける(棚卸し)
2.リスクを分析する(定量な定義づけ)
3.リスクを整理する(影響度と発生率で優先順位をつける)
4.リスクに対応する(優先順位の高いものから取り組む)
こと防災訓練となると、1~3をすっ飛ばしていきなり4をやろうとする傾向が見られる。
ビジネス界隈でさんざん言われているリスクマネジメントの考えかたをあてはめると、そう難しくない。
1から順を追ってやっていけば、「防災ニーズに気づいてない人」と「ヤル気マンマンの人」の温度差も少なくなるはず。
あとはホラ、おなじみのPDCAサイクルを回していけばいいわけで。