秘密を知ってしまった人の葛藤

ちょっとした偶然から他人の秘密を知ってしまった。

偶然に垣間見たその秘密は、ほんの一瞬だったがとても美しかった。
清らかで眩しく、まるで光を放っているようだった。
衝撃的な甘美さを、いまでもじんわりと反芻しているくらいだ。

なぜこんな美しいものが誰にも知られず、たったひとりの胸の内に隠されているんだろう。もったいない。
世界中のすべての人がこの美しさを知り、ふれて、感激を共有すればいいのに。

いいや。
秘められているからこそ、輝きは保たれているのかもしれない。
世界に知られてしまったら美しさは消費され、蹂躙され、あとかたもなくなってしまうのかもしれない。

そうだとしたらうかつに口外などできるものではない。
垣間見た秘密は、私の中だけにとどめておかねばならない。
秘密は墓場まで持っていけというではないか。

それでもせめて、特別な秘密に出会ったことだけでも誰かと共有したい。
ごく近い信頼できる相手に、具体的なことは語らず、箝口令を強いて。
あぁ、誰かに話したい。

しかし、本人が秘密にしているものを、詳細を伏せているとはいえ第三者に漏らしてしまうのはいかがなものか。
あの美しさを汚すことになりはしないか。
一瞬だけふれたあの輝きを美しいと感じた、自分の美意識を汚すことになりはしないか。

秘密を知った者は、それを永遠に秘す義務を負う。
その覚悟がないのに、軽々しく知ってしまったあとの葛藤はなんとも苦しい。

のたうちまわる会社

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