クロスロードというカードゲームをご存知だろうか。
クロスロードは、意思決定シミュレーションの災害版。
重大な決断を迫られたときにどう判断するかを考えるゲームで、正解はない。
提示されたシチュエーションについて考えるという極めて単純なルールながら、実に奥深い。
ジレンマにどう対応するか
ゲームのシチュエーションは阪神淡路大震災を経験した神戸市職員のインタビューに基づいて作られている。
だから実にリアル。
そして、どのシチュエーションもスッパリ即答しにくいものばかり。
具合の悪い高齢者を医療体制のある避難所に残すのか、それとも電気だけは復旧した自宅へ戻すのか。
日ごろの備えのおかげで豊富な食料を持っているが、それを避難所で開けて食べるのか。
自分にとっては家族同然の大型のペットを避難所へ連れて行くのか。
どの決断もこちらを立てればあちらが立たずというようなジレンマを伴う。
ほんのちょっとした条件の違いで判断が逆転しそうなものばかり。
あの震災で被災した人たちは、こんな判断を迫られ続けていたのだ。
そのストレスは想像に難くない。
このゲームの趣旨はどうやって生き残るかを考えるものではない。
一緒に参加している人のさまざまな価値観を知る。それが目的だ。
それぞれの価値観の違いを乗り越えてみんなが合意に至る。そこらへんが最終目標だろうか。
それぞれの理由
提示されたシチュエーションに、イエスかノーかの答えを出す。
出した答えの多数派になった人が「勝ち」だ。
しかしこれ、多数派の意見でコトを進めよというゲームではない。
少数派の意見、ときにはたったひとりが出した異なる意見も重要視される。
全員が意思表明をした後は、その答えに至った理由をディスカッションする。
多数派は多数派の、少数派は少数派の、それぞれに判断した理由がある。
どちらの意見も興味深い。
どうしたらいいですか?
「正解がない」
これは私が消防訓練でよくふれる話だ。
訓練の司会をやっていると「こういうときはどうしたらいいんですか?」という質問を受けることがよくある。
例えば、「火事を発見したら、消火と通報とどっちを先にしたらいいですか?」とか。
私はその質問に回答することができない。
なぜなら、些細な条件の違いで大きな差異が生まれるからだ。
正解も特効薬もない。
私にできるのは、考えるヒントとして私の持っている情報を差し出すことだけだ。