どでかい災害の場合、行政による避難所の運営が追いつかないことは十分に考えられる。
自分たちの避難所は自分たちでなんとかしなければならぬ。
着のみ着のままで避難してきたとはいえ、歓迎ムードのおもてなしを期待するわけにもいくまい。
だったらちょっとシミュレーションして、気持ちだけでも準備しとこうか。
というのが、静岡県の開発した防災ゲーム・避難所運営HUG。
数名で構成されたチームで、ある避難所の采配をやりくりしていくのだが、これが実に心折れる体験だったのでご紹介したい。
序盤
避難所として開設された小学校に続々と集まってくる避難者たち。
さまざまな事情を抱えた人たちをどのように配置するのか。
支援物資の到着やトラブル、取材の依頼など、次々に起こるやっかいごと(あえてやっかいごととと言わせてもらう)への対応も迫られる。
てな流れのゲーム。

体育館シートを広げて、避難所の開設。

そこへやってくる最初の避難者・床上さん。
床上さん・男性・45歳。
ちょっと話を聞いてみると、家が全壊したと言うではないか。
床上どころじゃないぞ。気の毒に。

ご家族も一緒。
こうやって、避難所にやってくる人に模したカードを適所に振り分けていく。
カードにはそれぞれの持つ事情が書かれており、事情に応じた采配をするのが運営側の腕の見せどころとなる。
続々とやってくる
息つくヒマもなく避難者がやってくる。
続いて避難所入りしたのは海溝さんご一家。
30代の夫婦に子どもが2人。
持参したテントを校庭に設営したいと言うアウトドア派。

避難者のみなさんには、災害がらみの不吉なワードで名前がつけられている。(海溝=そこらへんの海底より長く細く深い凹地)
そりゃ構いませんけど、しかしお子さんは大丈夫ですかね。
まだ2歳じゃないの。
このゲームで設定されている季節は冬、天候は雨。
雨脚はこれから強くなり、夜半にかけて気温は0度まで下がる予報だ。
そうはいっても本人が希望している以上、やむを得ない。
こちらにはわからない事情があるのかもしれないし。
ペット事情
お次はこのご家族。

幼児・妊婦・姑、おまけにペット同伴の噴火一家。
男児を連れた若い噴火さんご夫婦。名字のせいで気性の激しさを連想してしまう。
奥さんは妊娠してて、バァバとネコが一緒。
嫁と姑の関係はこの際だから一時休戦としていただこう。知らんけど。
それよりもこのネコ、どうしたらいいんだろ。
私はネコを飼っていないので、どう判断したらいいかがわからない。
余談だが、わが家のペット(と言っていいのか)は金魚が1匹。
イザ避難となったら、当然のごとく家に置いて行く所存である。
それどころか、玄関に鎮座するガラスの大型水槽が割れて避難に支障が出るのではないかと、ふだんからやや厄介者扱いをしている。
トラブル発生

ときどき発生するやっかいごとの例。
もうダメです。トイレを使わせてください。お願いです!
尿意か便意か知らないが、ギリギリまでこらえていた人がついに限界に達したらしい。
実は先ほど「トイレは危険だから立入禁止」というやっかいごとが発生したばかり。どうすんの。
そうこうするうち、こちらもだんだんテンパってくる。
病気だの迷子だの食料がないだの、とにかくてんやわんやなのだ。
雨の中、外で待っている避難者のことを考えたらじっくり対応している余裕はない。
みなさんの事情はわかりますけど、ホントどうにもならないんですよ。
あまりの板挟みに、もういっそすべてを放棄したいくらいだ。
そんな状態なのでメディアの取材依頼を断った。
これもときおり発生するやっかいごとのひとつとして設定されている。
んなことやってる場合か!
あと、総理大臣の訪問というやっかいごとも追い返した。
アンタが来てなんになるッ!

総勢20名を引き連れてやってくる総理大臣。
想定外
混乱する避難所にひとりの男性がやってきた。
九州からの旅行者・大分さん。
見知らぬ土地で被災し、戸惑っている様子。
帰宅困難者だ。

旅行中に被災する大分さん。同郷の親しみがわく。
そっか。
観光地ならこういうことだってありうるわけか。
完全に盲点だった。

あら宮崎さんも。実は私も宮崎出身なんですよ。

え‥‥。ちょ‥‥まさか。

ツアー旅行だったのかよ!いったい何人いるんだ!
避難所運営のつらさ
とまぁ、こんなふうに慣れぬ采配をしているうちに避難所はカオス状態。
すでに定員オーバー。
避難者は文字通り、重なりあって身を寄せている。
「なんでうちがこの場所なんだよ!」とか「さっさとやれよ!」とか、イラついた避難者に何度か詰め寄られた(としてもおかしくない)。
これ以上ヘタこいたら殴られるかも。ヒィィ。

家族の上に家族を積み重ねる荒業。
この避難所運営ゲーム、日本中が一度はやるべき。
学校の必修科目にしたらいいのに。
これをやれば避難所運営がわがことになる。
非常時の自分の振る舞い方、自分の律し方に思いを馳せることができる。
ふだんから健康な体作りに取り組むとか、自分の家族ぐらいはなんとかなる備えをするとかを考えることができる。
避難所運営は並大抵のことじゃない。
このゲームをやったからって、私が上手に避難所を運営できるとはとても思えないが、少なくとも自分のことはちゃんとしとこうって気になる。
運営側に詰め寄るとか殴り掛かるとか、そういうことはやっちゃいかん。気持ちはわかるけど。
【参考動画:南海地震対策啓発ドラマ「その日、その時‥‥」で物資不足の不満を支援者にぶつける避難者】
今日の教訓【平穏なときの不便は、買ってでもせよ】