就職するきっかけ
新卒であれ中途であれ、就職するときには自分の希望する職種を選ぶことが多い。
職種でなく、勤務地や時間で選ぶ人もいるだろう。
能力を買われて引き抜かれる場合もあろう。
とにかく、就職するときはその本人になんらかのかかわりがあるものだ。
ところが、本人とまるっきり関係なく、思いもよらなかった仕事につくパターンがある。
特に女性に多い。
それが、結婚を発端とする就職。
専門家の妻
私は今、消防設備点検というガテンの仕事をしている。
それだけでなく、デザインや防災訓練のコーディネート、司会もやっている。
これらの仕事が好きだったわけでもなく、目指していたわけでもない。
結婚した相手がたまたま消防設備士という専門家だった。
それだけだ。
結婚・出産が落ち着いたころ、「当然やるよね?」みたいな感じで仕事が用意された。
乳児とともにすごすメリハリのない1日に焦りと物足りなさを感じていた私にとって、身内の会社に就職するというのは渡りに船。
即仕事にありつけるだけでなく、それなりに融通が利くというのが身内の魅力。
こうして私はこの業界に足を踏み入れた。
中途半端なプロ
結婚相手の仕事を一緒にやることになってしまった妻たちは、プロであり素人でもある。
身内だから、専門分野の正式な職業教育を受けないことが多い。
たいていはイキナリ現場に出て、見よう見まねで仕事を始める。
技は盗め。
まさに職人の世界である。
しかし、少し仕事を覚えてくると、妻たちは自信をなくす。
自分がいつまでも素人、多く見積もってもペーペーのような気がするからだ。
どんなに精進しても勉強しても、専門家としては夫にかなわない。
決して追いつけない。太刀打ちできない。
たどり着けない頂上をめざして、自分はいつまでこうしてあがき続けるのだろうか。
妻の強み
しかし、妻たちには強みがある。
まっとうな職人の夫には得ることの叶わない強み。
それは、素人目線を持ったプロであるということ。
結婚相手の仕事を一緒にやることになってしまった妻だからこその強み。
さらに妻たちは、主婦目線、母親目線、女目線も持っている。
生粋のプロである夫には絶対にマネできない立ち位置だ。
そのせいか、専門家の妻たちは広報役を担っていることが多い。
人前でしゃべるのがうまいとか、デザインが好きとか、マンガが書けるとか、SNSを使いこなすとか、ウェブサイトを作るとか。
妻たちは、広報という分野で夫の仕事を支えている。
これも、広報が好きで得意というわけでは決してない。
夫がやらない分野だからやってるだけである。
広報をやっている専門家の妻たち
私の知っている「結婚相手の仕事を一緒にやるハメになり、広報を担っている妻たち」を紹介したい。
それぞれのバックボーンは違えど、彼女たちに共感と尊敬の念しかない。
中川あゆみ/豊前中央鍼灸整骨院
笑う社長夫人・にんみつ/株式会社ロケット
みきさん/住まいりーど
鶴亀のヨメ/有限会社鶴亀フーズ
イシヤノヨメ/株式会社安東石材店
業界の固定観念から脱却しきれないプロと、専門的なことなどまるで分らない一般人との橋渡しができる稀有な存在。
それが、結婚相手の仕事を一緒にやることになってしまった妻たちの強み。
そうこうするうちに、よそでライター仕事を受けたり、テレビに出たり、ブロガーとして有名になったりするかもしれない。
そうしたら、妻たちはそっちのプロだ。